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日本人のルーツを求めて!? 旅の運気が爆上がりの島で湖畔車中泊【すみません、ボクら、迷子でしょうか?:第5話】

日本人の起源があって、世界最古の湖があるシャーマンな島?

さて困った。まだ9月だというのに、雪が降るとは思わなかった。

この雲行きでは、来週にも根雪が降りそうだ。われわれ夫婦は耳につららをぶら下げて通学した道産子なので、雪の到来には人一倍敏感なのである。とか言いながら、昨夜の吹雪に気づかないとは、誠に申し訳ございません。以後、気をつけます。

Yuko、先を急ごう。冬将軍がすぐ後に迫ってきている。

「そうだね。タイヤはロシアで買えばいいよね」

だね。ロシアでも軽自動車は見てないわけで、車種を見分けられないYukoは幸せ者だ。

シベリアの大地は黄金色に輝いていた。残念だが、紅葉を楽しんでいる暇はない。うかうかしているとシベリアの吹雪に閉じ込められ、発見されるのは来年の春になるだろう。

全速前進、脇目も振らず、ヨーソロー!

冬将軍に追いつかれぬよう気を張ってアクセルを踏んでいたが、あっという間に暖かくなって、雪はすっかり溶けてしまった。小春日和どころか、夏に戻った感があった。気温の上昇とともに張り詰めた心の糸はゆるゆるに緩んでゆく。

「この先で右に曲がるとバイカル湖なんだけど」
「世界一古い湖で、世界一透明で、世界一深いって」
「日本人の起源は、バイカル湖って説もあるみたい」
「シャーマンな島があるんだって」

湖三冠王を獲得し、日本人のルーツで、シャーマン? シャーマンって、あの精霊だか幽霊が、顔に絵の具とか塗って、うほうほうほうほ唄いながら踊る人? 予言したり病気を治してくれる人のこと?

そんなパワースポットがあるなら、ぜひ、旅の運気を上げていただこう。シャーマンに、エンジン警告灯を消してもらおう。今年だけ雪のない冬にしてもらおう。ハンドルを右に切り、バイカル湖に浮かぶオリホン島を目指した。

バイカル湖のほとりで車中泊。
「すみませーん、ここで寝てもいいですかー? 誰かいませんかー?」

さすがスピリチュアルな島。旅の運気が爆上がり

モンゴルとの国境から300kmほど北上すると、ロシアのイルクーツク市である。そこからバイカル湖に沿って北東に260km。Sakhiurta村の埠頭から、フェリーに乗った。

距離にして2km、15分後にオリホン島のザブロ岬に着いた。すでに夕方の18時、うす暗くなり始めた島はやたらと辛気臭かった。

栄養のなさそうなしけた雑草が這いつくばり、誰も名前をつけそうにない特徴のない低木が、ちらりほらりと生えているだけ。呪詛が染み込んだような濃灰色の空に、一羽の鳥も飛んでいない。チェーンソーを持ったジェイソンが、ぼんやり立っていそうだ。とはいえ、そんな不気味さがスピリチュアル感を醸し出していて、かえって頼もしいやら嬉しいやらである。

フェリーは無料。野良犬もお客さんだ

とはいえ、はて、どうしたものか──。波止場には、土産物屋も休憩所も島の案内図もない。ぜんぜん愛想がない。

誰かに、どこかにキャンプ場はありませんか? 駐車場でもいいんですけど? って訊きたいけれど、フェリーに乗っていた人たちはいずこへ消えたのか、無人島になっていた。暗くなる前に寝ぐらを確保せねばと、北へ向かった。野宿ができそうなポイントを探していると、やがて、200メートルくらい奥まったところに金網のフェンスが目に入った。

寄る辺のない大地の真ん中で眠るのは、怨霊とかジェイソンに襲われそうで心許ないが、フェンスでもなんでもいいからナニかに寄り添えば、誰かの所有物っぽくて目立たない、という作戦だ。筆者が編み出した隠遁の術である。

音を立てないように、そーっとフェンスに貼り付いて駐車した。寝る支度をしていたら、敷地内の奥から中年男性が歩いてきた。もう見つかるとは、口ほどにもない隠遁の術である。

かくなる上は、人畜無害の愉快な旅人を演じるに限る。間抜けだが気のいい奴&多少貧乏の気あり、と思わせれば、無碍にもできないだろう。情けは人の為ならずの術である。

「ズトラストビーチェ(こんにちは)、ヤポンスキー(日本人)です。今晩、ここで寝ていいですか?」えへへへ……とニヤニヤした。

「ここで寝たいのか? じゃ、中に入ればいいよ」

ロシア語だから本当のところは何を言っているのかわからないのだが、門を開けてくれたということはそういうことなんだろう。

「これ、さっき釣ったんだ、食べたらいいよ」と言ったかどうかは定かではないが、成仏しきってない活きのいい魚を2匹も手渡してくれたのはそういうことなんだろう。

「焚き火で焼いたら美味しいよ」

薪の前で話しているのだから、おそらくそういったことに違いない。どこの誰だか存じませんが、数々のご親切、かたじけない。

さすが筆者が見込んだスピリチュアルな島である。上陸して1時間と経たないのに、旅の運気が爆上がりなのだった。

フェンスの内側。殺されて魚の餌にされても文句を言えない寂しさ

バイカル湖でしか食べられない幻の魚

昨夜は、お言葉に甘えて、焚き火をして魚を焼いた。

魚はつぶらな瞳におちょぼ口、ごく普通の魚顔だったけれど、尋常ではない美味しさだった。できれば4匹くらい欲しかった。こんなに美味しいならさぞかし名のあるお方に違いあるまいと調べたら、あろうことか、バイカル湖でしか食べられない幻の魚オームリだったのである。

塩を振り、ホイルにニンニクを入れ、食べる寸前に醤油をちょろり

一宿一飯の親切な御仁は、もしかして噂のシャーマンではあるまいか、と思ったけれど、朝日の下でお会いすれば、どう見ても普通のおじさん。紺色のジャンパーがお似合いだが、それ以上でもそれ以下でもないようなので、スパシーパ(ありがとう)とお礼をして、出発した。

オリホン島は細長く、全長およそ70km。奄美大島と同じくらいの大きさである。奄美大島と言われても実感できない方は、頭の中で東京ドームを15,613個並べてみてほしい。東京ドームの建築面積は46,755m²で、畳で言うと28,230畳らしい。軽自動車で探検するには、ほどよい大きさなのだ。よくわからんけど。

日本人のルーツを求めて北上した。

波にさらわれるのではないかと、躊躇っているところ

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