公開日: 2023/12/09
人気の道の駅の条件というと、どんなものを思い浮かべるでしょうか?
充実した直売所だったり、豊富なグルメだったり、広々とした敷地だったりとさまざまありますが、「ノスタルジー」という全く違う魅力で一気に全国区になった道の駅があります。千葉県鋸南町の「保田小学校」です。
2023年10月、その保田小学校に新たな施設が加わりました。道の駅に隣接してオープンしたのは、その名も「保田小附属ようちえん」です。幼稚園と聞くと小学校に続く2匹目のドジョウ狙いか? と勘ぐってしまいますが、これまでの道の駅の課題を解決する考え抜かれた施設になっています。
今回は、保田小附属ようちえんの魅力を紹介していきたいと思います。
保田小学校は、改めて紹介するのがはばかられるほど著名な道の駅になりましたが、廃校になった小学校をリノベーションして2015年にオープンした道の駅です。体育館を直売施設、教室を飲食施設や宿泊施設にしていて、備品なども実際に使われていたものを活かしつつ、当時の面影が感じられるノスタルジックな雰囲気漂う場所として世代を問わず注目を集めてきました。
年間観光入込客数は78万人(2022年)、売上も7億4千万円(2022年度)と鋸南町が掲げた「都市交流施設」としての機能を十二分に発揮して、名実共に全国区の道の駅になりましたが、訪問者が増えれば増えるほど“ある悩み”を抱えていました。
1つは慢性的な「駐車場不足」。校庭だった場所を駐車場にしているため拡張が難しく、少し離れた場所に臨時駐車場を設けていました。もう1つは昨今、道の駅の命題にもなっている「子育て支援環境の整備」。校舎は限られており、屋内外含めて充分なスペースを確保することができないジレンマがありました。
これらの課題を解消すべく計画されたのが、隣接していた旧鋸南幼稚園の活用です。保田小学校同様、元々の建物をリノベーションすることで機能拡張を図りました。
・施設情報ページ:https://www.mobilitystory.com/michinoeki/detail/chiba/hotashogakkou/
・公式HP:https://hotasho.jp/
・千葉県の道の駅一覧:https://www.mobilitystory.com/michinoeki/chiba/
敷地に入ってまず驚くのが、大きな円形の屋根付き歩道、通称「わっか」。子ども用の遊具のある芝生の広場をぐるりと囲んでいて、小学校側から雨でも濡れずに移動できます。また、日差しを避けられるので、広場で遊ぶ子どものみまもりスペースにもなります。
建物の中には、カフェスタンドを併設したプレイカフェができました。ペットロボットのaiboがお出迎えしてくれる、およそ250平方メートル、テニスコート1面分あるキッズスペースには滑り台やサンドバッグ、ハンモックなどが設置されています。
こういった施設は滞在時間を増やす効果が期待できますが、子どもを遊ばせる場所をつくってほしいという町民の要望が具現化されたものだといいます。町内の子育て世代にも嬉しい施設なのですね。
ちなみにカフェでは、小松菜やニンジンなど季節の食材を使ったスムージーが味わえます。道の駅の直売所で残った野菜などもフードロス対策で再利用していく予定だそうです。ほかにも給食で実際に使われているパンを使った、ナポリタンを挟んだ“昭和のナポリパン”や“給食ハムカツパン”も提供しています。
保田小学校には給食メニューの味わえる「里山食堂」、石窯ピザの味わえる「廃校ピッツェリア Da Pe GONZO」など、バラエティに富んだ飲食テナントが入っていましたが、ようちえん側に更に3店舗が加わりました。
まずは、バターを使わずに焼いたクロワッサンを提供するカフェ「フロントビレッジダイナー」。オススメは国産もち豚100%の真っ黒な肉まんの鋸南ブラック。
鋸山名物・地獄のぞきになぞらえて激辛までいかないピリ辛の味わいです。スイーツならタマゴ、牛乳を使わずに仕上げたプラントベースのソフトクリームを、クロワッサンでサンドしたクロワッサンソフトクリームが味わえます。
漁師飯と黄金アジが味わえるのは「保田食堂」。その身体の色から黄金アジと呼ばれる房総名物のアジは、近海で育ったので身がふっくらしていて脂のノリが良い、アジフライにすると最高の食材です。ほかにも味噌や薬味を入れた魚のたたきの「なめろう」と旬の魚がのった海鮮丼などもあります。
さらにバラエティに富んだ揚げ物が楽しめるのが「なのはなぐみ かつ菜(さい)」。豚肉でくるんだチーズが溶け出す「チーズミルフィーユかつ」がお店一押しですが、鋸南の名所・鋸山の風景をイメージした「鋸山スペシャルカレー」も見た目のインパクト抜群です。
保田小学校の飲食店がランチの時間帯の営業なのに対して、午前~夕方まで営業している(店舗によって異なります)のも嬉しいところですね。
のびのび遊べるのは子どもたちだけではありません。千葉県の道の駅では珍しくドッグランが設けられています。昨今人気の道の駅では必ず見かけるようになりましたが、これも滞在時間を増やしてもらう工夫ですね。
さらにキャンピングカーが停められるRVパークが2枠分整備されました。水道、電源が設置されており、お風呂は保田小学校の「里の小湯」を利用することができます。サイドオーニングを広げるスペースも確保されているので、のんびり宿泊を楽しむことができます。
ほかにも、コワーキングスペースや高速バスの乗り入れ誘致のためのバス待合スペースも整備。駐車スペースも大幅に増えて、保田小学校と合わせて200台の収容が可能になりました。あらゆる要素を組み合わせて滞在を楽しんでもらおうという意気込みを感じましたが、気になるのは「どうしてここまで思い切った施設の拡充を図ったか?」、という点です。
保田小学校がオープンする以前から鋸南町は人口減少が続く地域で、都会との関係人口を増やしながら移住定住に繋げていきたい思いもあって「都市交流施設」という役割が与えられていました。
しかし、道の駅が開業した2015年に8000人いた人口は、現在7000人を下回っている状況です。特に町内で大きな被害の出た2019年の房総半島台風以降減少に歯止めがかかっていません。道の駅のネームバリューはうなぎ上りなのに、そこで暮らす人が減っていく悪循環はせっかくの成功が活かされないことになるので、危機感は大きなものだったと想像できます。
特に今回前述の子育て支援施設などで地域の現役世代の声を取り込んだのは、どちらかというと外向きになってしまいがちな道の駅に、地域住民が普段づかいできる機能を盛り込んだ結果ともいえます。子育て世代が暮らしやすい環境づくりは、ひいてはここで遊んだ子供たちが将来、町を出てしまっても10年20年後に帰ってこられる場づくりでもあります。
息の長い話ですが、ある意味持続可能な道の駅づくりともいえます。
保田小学校附属ようちえんの模様は、YouTubeでも紹介していますので是非ご覧ください。
・道の駅兄弟(YouTube):https://www.youtube.com/watch?v=mywusElRhco
ひと昔前ならドライブの休憩という側面から“道路利用者のため” といわれてきたでしょう。また、産品を出荷したり加工したりする“地元生産者のため” という視点もあります。最近はこれに“地域住民のため”という考え方が加わり、防災や子育て支援などの要素も加わってきました。
図らずもリノベーションという形でつくった都市交流施設は、シンボルの「わっか」同様、循環する長期的な視点で次の世代へ橋渡ししていく決意の表れなのかもしれません。そのためには施設を通じて、まず鋸南の魅力を多くの人に知ってもらう必要があった訳で、そのための設備と思って見てみるとさまざまな気づきができそうです。
課題を解決しようと作られた施設には必ず何か意味があり、新しい施設ができたから行ってみようで終わらず、視点を変えて見てみるのもオススメです。いやはや道の駅めぐりは奥深いですね。
■著者プロフィール、この著者のこれまでの記事は:https://www.mobilitystory.com/article/author/000031/